【書評】武器になる哲学

「武器になる哲学」は「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」などで知られる山口周氏による、哲学の入門書です。

あらすじ

筆者はコンサルが本職ということもあり、読み手の興味をそそるような言い回し、構成だったり、言葉使いが随所にみられ、サクサク読み進められます。トータルで見ても、読んでよかったな、と思える代物です。タイトルに哲学という言葉がありますが、そう構える必要も無く、過去の哲学者(哲学者以外も登場しますが)の残したテキストをもとにビジネスに生かせる知見を得ようというものです。読み終えるとどことなく頭の中身が整理されたような感じがし、なるほど確かに人類の長い歴史の中で今の自分たちが置かれている世界、時代においてもえるものはあるのだな、と考えさせられます。ボリュームが多いので1回目はじっくりと、2回目、3回目はサラッと、何度か読んでみることをお勧めします。

所感

第1部 哲学ほど有用な「道具」はない

第1部ですが、ここでもまだ具体的な哲学の話はほとんど出てきません。第1部では、何故世の中に数多の哲学入門書が存在するにも関わらずいまいちウケないのか、何故哲学を学び始めた人はすぐに挫折してしまうのか、本書「武器になる哲学」と他の哲学入門書との違いはどこにあるのかについて述べ、この書籍が哲学の初心者にとっていかに有用であるかを記しています。
プロローグに続き、導入的な要素が強いです。他書との違いを強調し、「時間軸を意識しない」「whatの視点とhowの視点」など本書「武器になる哲学」のアプローチをデカルトの「我思う、ゆえに我あり」という言葉を例にとり、ストレートにアピールしています。読み手の気持ちを掴むという点では非常に上手い構成だと思いました。このあたりもコンサルならではの手法なのかもしれません。

プロローグ

プロローグでは、ビジネスマンが哲学を学ぶ意義、日本と諸外国における哲学教育の位置付けの違いなどが記されています。特に興味深いのは欧米各国と日本における哲学という学問の位置付けの違いです。欧米各国では哲学を非常に重要な学問としており、哲学を必修科目として位置付けていたり、エリート教育の中で哲学教育に非常に多くの時間を費やしているというのです。これは正直驚きでした。私も含めて多分多くの方がそうだと思いますが、小学校~大学を通じて哲学という学問に触れる機会はそれほど多くないと思います。私は文系の学部出身ですが、哲学の講義を受けたことはありません。(もちろん、積極的に習得されている方もたくさんいるとおもいますが)プロローグではこのような哲学の実情とともに、ビジネスパーソンが哲学を学ぶ意義は何なのかという点をまとめています。

第2部 知的戦闘力を最大化する50のキーコンセプト

ここからが本題になります。第2部では筆者がビジネスパーソンにとって有益だと考えると哲学を50のキーコンセプトとして「人」「組織」「社会」「思想」社会の4つのカテゴリに分けて解説しています。
全てを紹介するとなると膨大な量になりますし、そもそもネタバレになってしまうので、ここでは私の心に留まったものを簡単にご紹介します。

ルサンチマン
ルサンチマンは「人」に関するキーコンセプトで、フリードリッヒ・ニーチェの言葉です。筆者はこれを「やっかみ」と表現しています。「やっかみ」とは直接何かされたわけではないにも関わらず、相手を僻んだり妬んだりすること。これがエスカレートしていくとどうなるか?

悪魔の代弁者
悪魔の代弁者は「組織」に関するキーコンセプトとして紹介されています。組織において重大な決断を下す時に、同じような価値観を持つ者だけが頭を突き合わせてアレヤコレやヤと議論してもその組織にとって最適なソリューションは導き出せない、議論を洗練させるためには反対意見を持つもの、即ち「悪魔の代弁者」を投入せよ、というものです。本書の中ではケネディ大統領がキューバ危機を乗り越える際にこの「悪魔の代弁者」がいかに重宝したか
という実例を踏まえて紹介しています。

公正世界仮説
「組織」に関するキーコンセプトの最後に登場します。何やらたいそうなキーワードですが、簡単に言うと世界は平等で無ければならない、影でひっそりと努力するものはいつか報われなければならない、という思想です。そう言われると「いやいや、そんな事はない、それは理想論だ」と反論したくなりますが、心のどこかではそうあって欲しいという思いがあることに気づかされます。
世界は平等ではないと分かっていても、そう望んでしまうのはそう考えないとヤッテラレナイからなのかもしれません。日本は特に因果応報、自業自得、極楽浄土など仏教的なバックグラウンドが強いのでこういう考えが根付き易いのかもしれません。筆者はこの公正世界仮説に捕らわれた権力者たちが歴史的悲劇を引き起こす原因となったと説いています。

弁証法
「弁証法」は本書の前半から繰り返し登場する方法論で、対立する2つの意見をぶつけ合い、議論することで新しい理論(命題)が生まれるというものです。これは歴史の中の出来事にも適用され、過去にあった制度や考え方が現在の仕組みとぶつかり合うことで、古いものが違う形を変えて復活する。筆者は実例として教育制度の未来を弁証法によって、説いています。

まとめ

今回は書籍の構成に沿って、考察を述べてきました。色々と書きましたがお勧めの一冊です。冒頭にも述べましたが、隅々まで理解するというよりも、何度か繰り返して読むことで、エッセンスを押さえることをおススメします。